明るく元気で、楽しい研修・講演

新着情報

クレーム千夜一夜 < 第62話 「怒る女」の話>

いつも利用している市営バスの車内での出来事です。私は後方の座席にいました。前方の乗車口から50代の小柄な女性が乗ってきました。足を引きずりながら杖を突いています。背中のおしゃれなバックパックが印象的でした。前方に座っていた70歳前後の女性が見かねて席を立ち、女性の腕を軽く叩いて「こちらのお席にどうぞ」と言い終わるか否かのことでした。「触らないで!危ないから!」と杖の女性が怒鳴ったのです。表情もきついものでした。乗客全員が驚き車内の空気は固まってしまいました。声をかけた女性も固まっていました。杖の女性はそう言うと、何事もなかったかのようにバスの中央の乗降口まで進みその柱に寄りかかりました。私も固まったまま、何も思いつきませんでした。
断るにしても言い方があるのでは?折角の好意をどうして台無しに?声を掛けてくれた女性の気持ちを考えたのだろうか?ひどい女性だ、社会常識に欠けている、と非難の気持ちが私の心の中で急激に広がりました。寂しい女性だなぁ。
しかし、暫くすると私の思いは少し変わってきました。席を譲ろうとした女性は勇気があるし、優しいし、人間的にも素晴らしい。その女性が責められることなど全くありません。この女性に「拍手」を送りたいくらいです。この気持ちは揺るぎません。一方、怒鳴った女性に何か事情があるのだろう。足がご不自由であることから、長いこと苦労されてきたのか。「足がお悪いの?大変ねえ」などと「可哀そう」「私は不自由ではなくてよかった」という優越感に満ちた表情で、哀れみ・同情心で見る多くの人に出会ったのかもしれません。そんな大げさな話ではなく、バスに乗る数分前に嫌なことがあって、その嫌悪感が残っていたのかもしれません。その人の事情も知らず、私の勝手な想像で安易に他人を非難してはいけません。何事にも理由があり、背景があるのでしょう。自分を戒めました。
それにしても席を譲ろうとした女性は気の毒でしたね。もう二度と親切心は起こすまいと思わないよう祈るだけです。この世に神・仏がいるのなら、どうかこの女性に救いの手を。アーメン。

2024.11.19
カテゴリー:新着情報
ページの先頭へ