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クレーム千夜一夜 < 第54話 「あのクソ息子は・・・」の話 >
先日、横浜市のがん検診制度を利用して内視鏡で胃がん検査をしてきた。かかりつけのクリニックで申請し当日を迎えた。いつもと違って、今回はクリニックの院長の息子が検査をするようだ。まだ若いが大丈夫かな?内視鏡検査が始まった。10分後に、「問題ありません。胃の中はきれいです。はい、これで終わりますよ」と内視鏡で中を見ながら内視鏡のケーブルを引っ張り上げ始めた。突然、小声で「あっ!」という『息子』の声が聞こえた。あらまあ、食道にがんの兆候が見つかったのだろうか?と内心不安を覚えたが、それにしても「あっ!」はないだろう。未熟な医師だなあ。15分後に診察室で『息子』が内視鏡の検査結果を説明してくれた。モニター画面には10円玉くらいの丸く黒い「薄っぺらい」ものが映し出されていた。「食道の上部に何かがあるようです。その場で検体として採取しようと思いましたが、食道の壁面はとても薄いので危険です。紹介状を書きますのでA病院で再検査してください」とその場でA病院に電話を入れてくれた。帰宅後すぐにA病院に検査予約をした。検査日が1週間後と決まった。
検査当日となりA病院に行き、無事に検査は終了。検査結果は1週間後となった。『息子』から宣告されてからの2週間は微妙な気持ちになった。「73歳になり、ある程度やりたいことは出来たし、まあ順番だろうな。終活の準備をしなくては、でも家族は心配するだろうから検査結果が出てから話をしよう」案外冷静でいられた。そして運命の日、A病院での検査結果の説明日となった。待合室で15分くらい待ち、A病院の医師から説明を受けることになった。診察室のモニターには『息子』から説明を受けたときと同じような『10円玉』がくっきりと映っていた。医師は軽い感じで声を発した。「ああ、これは異所性胃挂膜(いしょせいいけいまく)といってシミのようなものですよ。よく見つかるものですから全く心配ありませんよ」その言葉を聞いて心がどれほど軽くなったことか。同時に頭に浮かんだのは、「よく見つかるもの」すら知らなかった『息子』の顔と「あのクソ息子は…」という思いだった。