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クレーム千夜一夜 <第31夜「口だけ謝罪」の為政者>
「謝罪をする」というのは簡単なようでなかなか難しいようだ。
例えばの話だが、
混雑しているバスの車内を後方に向かって歩くときに、立っている人に身体の一部が当たってしまうことがある。素直に「ごめんなさい」「すみません」と口に出せばいいのに、狭量な人の自己保身なのか「混んでいるのだから当たるのは仕方が無いだろう」「当たったと言っても痛いわけではないはずだ」などという『へ理屈』が自分の心の中で蔓延してくることがあるようだ。だから謝罪せずにそのまま素通りしてしまうことになる。
自分のミスで相手に迷惑をかけたのだから謝罪するのは当たり前なのに、素直になれない人は少なくない。
しかし、クレーム対応という分野では、素直な気持ちでタイミングよく心からのお詫びをすることはクレームの解決にとても効果的だ。クレームを申し出た人の多くは、相手が悪いと信じ切っているから文句を言っている。相手が悪いのだから当然相手は謝るはずだ、と確信している。だから、応対者がタイミングよく素直に、心から「申し訳ございませんでした」と口に出せばクレームはスムーズに解決に向かうことになる。
現実のクレーム対応の場面ではなかなか見受けられないようだ。
謝らない人の理屈はこうだ。だって、相手が勝手に決めつけているだけで、こちらが悪いかどうかよく分からないのに、最初から謝罪などしたら相手は益々増長して収拾が付かなくなってしまう。最初の段階で謝罪などしてはいけない、という『誤解』がクレーム対応の世界ではまかり通っている。
そうではない、確かに申し出を受けた時点ではどちらに問題があるのかは分からないだろう。そんな状況下で「私どものミスです」「責任は私どもにあります」と口に出してお詫びをしてはいけないことは言うまでも無い。
そうではなく、今の時点ではこちらに「非」があるとは言えないけれど、相手は今回のことでとても嫌な気持ち、悔しい思いをしていて、「気分が悪い」と言っているのだ。こちらの商品やサービスが原因で気分を害したと言っているのだ。だったら相手のその気持ちに応じて素直に心からお詫びをすれば良い。
「そうだったんですね、そんなことがあったのですね。申し訳ございませんでした」と心から相手にお詫びをすれば良い。『心から』がポイントだ。そして、責任を認めた訳ではなく、お客様の気持ちに対してお詫びをするという『限定的』で『条件付き』の謝罪であることがポイントだ。
いずれにせよ、『心から』の素直なお詫びの言葉を聴いて、さらに文句を言う人はいない。「私の怒りを理解してくれた」「私が恥をかいたことを分かってくれた」と自分の気持ちを分かって貰えたという満足感や充実感を相手は味わうことになるのだ。この応対者は私の気持ちを分かってくれた、と相手が感じればクレーム対応は7割以上解決していると言える。お申し出時には感情的だった相手が平静さを取り戻すことになり、その後は、応対者とお客様とは冷静に話し合いが出来る舞台設定が出来上がったことになるのだ。
怒りに満ちて感情的になっている相手に、応対者が説明したり説得したりと、こちら側の『理屈』を伝えても「跳ね飛ばされてしまう」だけであることに気付くことが必要だ。感情は理屈よりも強いのだ。
クレーム対応の『基本』は、最初の段階で相手の気持ちを鎮める・沈静化させることにあると気付くと解決が早くなる。
昨年から今年にかけて、どこかの国の為政者がコロナ関連で何度も緊急事態宣言の発出をしている。そのたびに、「感染が抑えられず国民の皆様にお詫び申し上げます。今回の発出では感染を絶対に抑えるように全力を尽くします」と言葉にしているのをTVで見る。表情もなく、言葉の抑揚もなく、力強さも感じない。官僚が作った文章をただ読んでいるように聞こえる口だけのお詫びでは、私たち国民にその気持ちが届くはずがないことは当然だ。