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クレーム千夜一夜 <第9夜 年の瀬に考える>
私はよく横浜市営バスを利用いたします。皆さんがご利用されている各都市の乗り合いバスと同じかもしれませんが、横浜市営バスに乗車する場合は、バスの前方の乗車口から乗ります。そして、降りるときは車両の中ほどにある出口を利用します。
先日もいつものように市営バスに乗車しました。ほどほどの乗客が乗っていて、生憎、座る席がありません。仕方が無く、中ほどの出口のすぐ後ろに位置する座席の横の通路に立ち、手すりにつかまっていました。
偶然、私の横の出口のすぐ後ろに座っていた中年女性が立ち上がり、バス停で降りました。窓側には60代の女性がそのまま座り、その隣の通路側の席が空いたのです。すぐ前を見ると、出口のそばで杖を突きながらバスの揺れに耐えている70代の男性のご老人がいることに気が付きました。私は当然のように「どうぞお座りください」と声を掛けました。非常に温厚で上品な雰囲気のご老人は「ありがとうございます。次のバス停で降りますので・・・」という断りをやんわりと私に返してきしました。そうか、それなら私が・・・、と思い空いた席に着きました。
ご老人は、断ってしまったことで私に悪いと感じたのか、私に対して「いやあ、健康のために座らないようにしているんですよ。なるべく外出して歩くようにしているんですよ」と明るい笑顔で声を掛けてくれました。
私は「そうですか、歩くことは健康に良いことですものね・・・」などと返した瞬間、私の耳のそばですさまじい怒声が響きました。私の隣に座っていた60代の女性がご老人に向かって抗議したのです。「あのねえ、私の主人は毎日掃除機で家の中の掃除を手伝ってくれますよ。歩くばかりが健康ではないですよ。健康、健康というならば、もっと奥様の手伝いをしてあげればいいじゃないですか・・・。奥様がかわいそうですよ!」と予想もしない大声がバスの中に響いたのです。「あらまあ~・・・」私は思わず心の中で叫んだだけで何の反応もしませんでした。 すると、そのご老人はニコニコしながら私の隣の女性に対して「そうですか、それはすみませんでした。」と謝ったのです。さらに、そのご老人は「すみませんでしたね。」と続けた後、「しかし、我が家では自動で部屋中を掃除してくれる掃除機を使用しているんですよ」とジョークを交えて女性に返しました。すると、またもやハプニングが起こりました。今度は抗議した女性のすぐ後ろに座っていた別な60代の女性が「何を言っているの~、だったらお茶碗を洗えばいいじゃないですか。洗濯を手伝えばいいじゃないですか、家事というのはたくさんあるんですよ」とばかり前の女性の援軍となって叫んだのです。「うわあ~、これはまずい・・・大変なことになった」と私が感じていると、バスが次の停留所で止まり、上品な男性はニコニコしながら降りて行きました。
そこのバス停では多くの乗客が降りていきました。残されたのは、威勢の良い2名の中年女性と他の乗客数名しかおりません。敵地で捕虜になったような気持ちで座っていると、「あなたもお願いしますね、主婦って大変なんですから・・・。お願いしますよ!」強い口調ではなかったが、私には脅しとも受け取れるような口調で私に話をしてきたのです。そりゃそうだよな、私自身あまり家事をしないし、女房の手伝いなど、年に数回程度です。男性優位な社会に胡坐をかいて、家事や育児を女性に押し付けているのかもしれません。外で仕事をしている既婚女性はたくさんいるにもかかわらず、家事は女性がやるのが当然だ、なんていう考えを持っている男性は私の回りにはたくさんいます。今回の2名の女性が厳しい声を上げたとしても「虐げられている女性」の立場からすれば女性を擁護する言動は当然のことなんだろうな。大声で怒鳴ったからといって非難するのではなく、それは男性に分かってもらいたいという女性の気持ちの表れなんだろう。一瞬のうちに心の中で整理できた私は「そうですね・・・。はい、頑張ります」と返して、これ以上火の粉がこちらに飛んでこないように別な席に移動しました。私が降りるバス停に到着したので、これ幸いとばかり急いでそのバスを降りた私でした。
バスを降りてから少し考えてみました。確かに家事は女性の役割という押し付けをしている男性は多いかもしれないが、今回のご老人の場合はどうだったんだろう。だいたい、あの二人の女性は、上品なご老人のことをどれだけ知っているんだろうか?いや、何も知らないでしょう。なぜ奥さんの手伝いをしないのか、と一方的に非難していたけど、もしかして奥様は他界されて、あのご老人が一人で炊事・洗濯・清掃をしているかもしれない。ご自分の生活をきちんとしながら、バスに乗って散歩をしていることだって考えられる。
何も知らないにもかかわらず、自分の世界・考え方と違うと思っただけでそれに合わない人を非難するなんて、ちょっと酷いよな。相手の状況を理解しようなどと思う人は少なくなってきたのかなあ?
それにしても、あの2名の女性の勢いは凄かったなあ。どうしてあんなに自信をもって他人を非難することができるのだろう?未だによく分からない経験をいたしました。
年の瀬になると怖いことが起きるものですね。