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クレーム千夜一夜 < 第59話 「運の悪い日」の話 >
橫浜駅に行くため、近所のバス停で並んでバスを待っていました。前から3番目に並んでいたので、バスに乗ったときは何とか座席を確保することが出来ました。進行方向右側の1人用の座席が空いていたのです。座ると、私と同年代くらいの男性が私の座席の横に立ちつり革に掴まりました。一瞬悩みましたが、健康そうであり同年代そうなので席は譲らずに座っていました。3つ先の停留所から10人くらいが乗り込んできました。乗車してくる人たちを見ていると、健康そうな人ばかりだったのでやはり座り続けていました。ところが、最後に乗り込んできた人が80歳前後の杖をついていたご婦人だったのです。車内はだいぶ混み始めてきました。見回しても空いている席はありません。これは私が座席を譲らねばと私は立って1、2歩歩いてその女性に声を掛けました。「どうぞお座りください」と空いた席を示しました。するとその女性からは「次降りますから大丈夫です」という言葉が返って来たのです。瞬間、悩みましたが私は再度「まあまあ、そう言わずお座りください」と軽く腕を引くように誘導しました。いつまでも腕を引っ張り続けていると強引過ぎるような気がしたので腕を放し、しかもそのご婦人をそのまま見続けているとお互いの意志が衝突してしまい、かえって座りにくくなってしまうだろうと思った私は、女性に背を向けて空けた席の隣のつり革に掴まりました。20秒くらい経ったでしょうか、まだ席がぽっかりと空いています。あらまあ、座るつもりはないようだ。困ったな。もう一度声かけを?空けた座席に戻る?とはいえ「どうぞ」と席を空けた私が戻るのはカッコ悪いな。どうしよう?と考えていたその瞬間、同じバス停から乗った同年代の男性が当然のように空いている席に座りました。私がすぐ隣のつり革で立っていることなどまったく気にしている様子はありません。杖のご婦人は次のバス停で下車していきました。あらまあ、今日は悪い1日になりそうだ、と車内の出来事をぼんやりと考えていましたが、バスは何事もなかったように橫浜駅に走り続けました。